「憲法」て何だろう?―(2)漫画『ベルサイユのばら』から考える

 17~18世紀にかけてのヨーロッパ史には、学校で授業をしていてもついつい力が入ってしまいます。
 何しろ、それまで支配層によって押さえつけられ、ただ惨めな悲しい想いをするしかなかった一般の民衆が立ち上がり、自由と平等を叫んで立ち上がっていくのですから。
 その市民革命の時代の授業では

  1649年~イギリス革命(清教徒革命、名誉革命)→ 1776年~アメリカ独立
→ 1789年~フランス革命 → 18世紀後半~産業革命

と進んでいくのですが、人権の歴史を考える上でも、最も具体的で理解しやすいフランス革命を時間をかけて取り上げます。

ベルサイユ宮殿

ベルサイユ宮殿 マリー・アントワネットの部屋

 

 フランス革命といえば、何と言っても池田理代子作の傑作漫画『ベルサイユのばら』(注1)がありますので、ふんだんに使わせて頂きます。社会科教師も勉強になるほど、時代考証もしっかりしています。

 まずは写真で、豪華なベルサイユ宮殿と宮殿内部のようす、国王ルイ16世の書斎や王妃マリー・アントワネットの小部屋や調度品などを見せます。その美しさにはため息が出ます。
 しかしその栄華も国民生活の犠牲の上にありました。
 年間国家予算5億3000万のうち4億7000万リーブルを国王一家だけで使い、フランス全人口2600万人のうち2200万人を占める農民は、国王、領主そして教会による3重の税で苦しみ、収入の80%は税で取り立てられていたこと。
 飢饉が起きるとすぐに餓死が頻発し、当時の人々の平均寿命は25歳、パリの人口60万人のうち、1/4は乞食だったこと。
 外国からの借金は既に45億リーブル(日本円にして54兆円)となり、その返済のために国王はさらに国民に増税しようとしていたこと。

 マリー・アントワネットが言ってしまったとされる有名な言葉「パンがなければお菓子(ブリオッシュ)を食べればいいのに」が、直接人々の怒りの火をつけることになり、1789年7月14日(注2)民衆は政治犯を収監していたバスチーユ監獄を攻撃、革命が始まったことを紹介したあと、『ベルサイユのばら』の1シーンを見せます。

 主人公オスカル(女性です)は、フランス国王を守る親衛隊の隊長であり、貴族です。ですから、民衆による革命が起きた時には、当然民衆に銃を向けます。

 ところが、オスカルの指揮下の隊員たちはほとんどが平民出身で、しかし親衛隊として民衆に銃を向けなければならない葛藤に苦しんでいました。
 そのときオスカルは、貴族として獲得していた勲章を自分の服から引きちぎり、隊員たちに、自分は貴族の身分を捨て、市民のために闘うと宣言をします。そのシーンです。

 そして革命のあと国民議会は、国王だろうが貴族だろうが平民だろうが、誰もがかけがえのない存在として持っている自由・平等などの権利を「人権宣言」として打ち出すことになります。


第1条 人は生まれながらにして、自由かつ平等な権利を持つ。
第2条 あらゆる政治的団結の目的は、生まれつきのもので侵すことのできない人権を維持することにある。その人権とは、自由・所有権・安全および圧政への抵抗である。
第3条 すべての主権は国民のものである。


 これが世界に向けての初めての民主主義の宣言でした。
 そして、その「人権宣言」を、守るべき最高の規範としてまとめたものが「憲法」だったわけです。
 そして、授業では次のような質問をします。

T.「人権宣言」を、守るべき最高の規範としてまとめたものが「憲法」だと言いましたね。だから、次のような言い方をします。

 「憲法とは、国民による、政府(国家)に対する(   )である」

T.さあ、この(   )にどんな言葉が入るでしょう?

 皆さんも、考えてみてください。

2024.2.23

(注1)『ベルサイユのばら』池田理代子(集英社 1973年)
(注2)この日、フランスでは7月14日は「パリ祭」として、共和国の成立を祝う建国記念日となっています。