少しくらい損をしても、ベッドにヒキガエルはやってこない!

 

 最近気になっていることがあります。
 かつては、救急車のサイレンというのは一大事でした。サイレンが聴こえてくると横断歩道上の歩行者は急いで渡り、走行している車両は直ぐに路肩に寄り、道路を空けたものでした。
 最近はどうも違います。すぐに道路を空けるというより、どうしたら自分の車を脇に寄せたり、停車したりすることをせずにやり過ごすことができるかを考えている車両が多いように思います。
 つまり、どうしたら「損」をせずに済ますことができるかと思うことが多くなっているのではないかと思うのです。

 「損」をしたくないという思い自体は、生活・人生を守るために必要な時があります。しかし、度が過ぎると危険です。「損」をしたくないと思うあまりに、自分以上に「得」をしそうな人を邪魔したくなったりします。

 自分事で、しかも恥ずかしい話ですが、先日歩道を歩いていると、自分が歩こうとしているライン上に向こうから人がやってくるのが見えました。そのままではぶつかりますから、どちらかが避ければいいだけの話です。ところが、自分が避けて「損」をし、相手が歩きたいように真っ直ぐ歩いて来る「得」を「許す」のが癪に障るのです。
 この時は、自分が真っ直ぐ歩いて、相手が避けてくれました。自分が「損」をせずに済みました。しかし、後味が悪い。自分がとても意地悪な人間になった気がしました。

 それはいろいろな所で見受けられます。
 日本で2022年から23年にかけて、マイノリティの人権を大切にしようという動きが高まって、同性婚やLGBT法案が提案されては、保守派の議員たちによって次々と廃案、骨抜きにされていきました。
 その審議のさなか、良く引き合いに出されたのが、ニュージーランド議会でのモーリス・ウィリアムソン氏によるスピーチでした。2013年に議会に同性婚法案が提案されたときの賛成のスピーチです。(https://www.youtube.com/watch?v=S1gca7hAwIM)

LGBTの象徴であるレインボーフラッグ。ウィリアムソンは地元での虹を、法案通過の吉兆ととらえて演説を行った。

 

 彼は、この法案が成立すると様々な大変なことが起こるという保守反対派の意見に触れ、この法案が成立しても大変なことは起こらないと言いました。
 太陽が昇らないということもない、起きてみたらベッドにヒキガエルがいたということもない。
 いつもと同じように年頃の娘からは反抗され、いつもと同じように明日も日々は続く。

 この法律が成立して起こるのは、ただ幸福な人が増えるということだけなのだ。
 そのようなことを抜群のユーモアを交えて語ります。そして最後に聖書の言葉を引用します。
 「汝、おそれるなかれ」

 私たちには、幸福な人が増えるのを恐れてしまう心があるのでしょうか。他人が幸福になると、その分、自分の幸福が減ると思っているかのように。
 でもそれは違います。他人が幸福になることによって自分も幸福になるように、人間は作られているのです。
 そのことを証明するために、人生を歩むのかもしれません。

2023.7.27