今まで知らなかったある文化と、それが持つ新しい価値観に初めて触れた時に感じる衝撃を意味します。
僕も大学卒業後、初めてアメリカ・カリフォルニアに住んだとき、アメリカの国土の広さと人々の生活の自由さは衝撃でした。
日本での自分が抱いていた心の不自由さが相対化でき、こんな風に心の枠を取り払って生きる生き方もあるんだと思ったのです。
アメリカでは、道を歩いていて人と目が合うと、必ず微笑み合い、あいさつしていたものでした。日本では目を合わさず歩き、合うと互いに胡散臭いものを見るかのような眼差しになりました。
ラッシュアワー時には、人は他の人々を押しのけるように急ぎ、血相を変えて我先に満員電車に乗り込みます。
いつも何かに追われているようで、その時その時を楽しむということができていませんでした。僕ら日本人は、何を大切にして生きてきてしまったのだろう・・・
今ではそんなに単純なものではないことも分かりますが、日本と日本に住む私たちを、日本の中から見るだけでなく、世界から見つめ直したときに、思わぬものが見えてくるのも確かです。
国の豊かさを示す指標に、GDP(Gross Domestic Product)国内総生産というものがあります。国の経済力を総合的に示すものですね。
日本は1968年以降、アメリカに次いでGDP世界第2位を42年間続けてきました。
それが、2010年に中国に抜かれて第3位に、2023年にはドイツに抜かれて第4位に、そしてつい先日のIMF(国際通貨基金)の発表によると、2025年はインドにも抜かれて、とうとう第5位に落ちました。
世界競争力ランキングというものもあります。
IMD(国際経済開発研究所)が毎年発表する各国の競争力の評価です。
1985年に世界第5位になって以来、1990年代を通して日本はずっとTop10に居続けました。それが2001年の9位を最後に、Top10から落ち、現在は第35位です。
同じアジアの国々でも、シンガポールが2位、台湾が7位、韓国が27位、タイが30位、カザフスタンが日本より上の34位です。
この日本の凋落ぶりは結構話題になってしまいましたね。

このグラフも有名になってしまいました。
先進6か国の実質賃金指数の推移です。
1997年を基準として、欧米諸国が軒並み実質賃金を上げている中で、日本だけが、83.4% と大きく落ち込んでいます。
名目賃金は日本も少しずつ上がっているのですが、物価上昇率が激しいので、それを加味すると、実質賃金は下がっていることになるのです。
日本の相対的貧困率は15.7%で、G7の中で最悪です。
高齢者の5人に1人は貧困、子供の7人に1人も貧困、年収300万円以下の人々が国民の40%を占め、国民の6割が生活が苦しいと訴えています。
先日、ある経済評論家がおっしゃった「日本人の多くが、まだ日本は大国だと思い込んでいるのではないか」という言葉が衝撃でした。確かに、そう思っていたかも。
2025年中国・重慶で開催されたドローン・ショーが、11,787機のドローンを使った「世界最大の空中イメージ」として、ギネス世界記録に認定されたというニュースが入ってきました。
「これはただの光のショーではなく、まさにドローン・テクノロジーの結晶であり、夜空をキャンバスに変えてしまう、未来のアートとも言うべき驚異のプロジェクト」と言っています。
中国で11,787機のドローンを使ったショーを開催。ギネス世界記録が樹立される | カラパイア
確かに凄い。日本では2020東京オリンピック開会式でのドローンによる「美しい地球」が話題になりましたが、あの時使われたドローンは1,824機だったそうです。一桁違いましたねえ。しかも、日本製でもなかったとか。
とどめに、こんな記事が出回っているのを目にしました。
カナダの大学の経済学で取り上げられた。
日本の貧困者は薬物もやらず、犯罪者の家族でもなく、移民でもない。
教育水準が低いわけでもなく、
怠惰でもなく、
勤勉で労働時間も長く、スキルが低いわけでもない。
世界でも例のない、完全な『政策のミス』による貧困だと
原典が分からないのですが、納得してしまいます。
では、日本にはどんな「政策のミス」があったのでしょうか?(注1)
1.法人税・所得税の最高税率の減少、消費税の増税
かつて、高額所得者の所得税最高税率は75%でした。
政府はそれをどんどん下げてあげて、1999年にはなんと37%にまでさがりました。(注2)現在45%です。
企業の利潤にかかる税を法人税と言いますね。
その法人税率は1985年には43.3%だったのが、1999年には30%に下げられました。大企業はもっと下げてほしいと言っていますし、様々な特典を利用して、法人税を払わなくて済むようにしていた企業もありました。

そして1985年に消費税を導入し、3%から5%、8%そしてとうとう10%にまで上げていきました。
導入の時には、社会保障費に充てると言っていましたが、グラフを見てわかるように、(このグラフも有名になってしまいました)消費税分がそのまま法人税の減収分に充てられているかの様子が分かります。

2.非正規雇用の拡大
非正規雇用とは、パートタイム、アルバイト、契約社員、派遣労働等と言います。
企業にとっては、正社員の人件費は固定費として重くのしかかります。社会保険料の負担もありますし。
それが、非正規雇用で良いとなれば、不況になった時には解雇しやすいですし、助かります。
政府はそれまで高度な専門職(例えば通訳、ソフトウェア開発など)に限定していた人材派遣を、1996年に26業種に拡大、さらにそれまで禁止していた製造業、医療関連業務も解禁され、それに応じて企業の利益は上がっていきました。
働く側は、当初は会社に束縛されず、自由な生き方ができると歓迎したかもしれませんが、いったん不況になると、雇用の不安定さが人々の生活を直撃します。
コロナ禍においては、自殺者の増加など、その歪みが可視化されました。
3.公企業の民営化と規制緩和
1980年代以降、日本では公企業が次々と民営化されていきました。
電電公社、日本専売公社、日本国有鉄道(国鉄)、日本郵政公社・・・
赤字体質の公企業は、民営化によって、互いに競争し合うようになり、その結果消費者にとってはありがたい商品・サービスが増えていくと聞かされていました。
そういう部分もあったでしょうが、鉄道路線の廃線のように、民営化によって、採算が取れないからと、サービスが廃止されるところも全国に出てきました。
公的機関によって私企業が参入するのを止められていた分野においても規制が取り払われました。
これらを通して、1980年代以降、ずっと大企業が活動しやすい環境が整えられ続けました。
当然、株価は上がりますね。
企業が利益を上げていけば、社員・労働者の賃金も上がり、社会全体が豊かになるといわれました。それを、トリクル・ダウン理論と言います。
しかし実際は、企業は得た利益を貯め込むばかりで(内部留保といいます)、社員・労働者の賃金を上げようとはあまりしませんでしたね。
今まで述べてきたような経済の動かし方を「新自由主義」と言います。
1970年代以降、シカゴ大学で教鞭をとっていたミルトン・フリードマンらによって提唱され、1980年代、アメリカのレーガン政権、イギリスのサッチャー政権、そして日本の中曽根政権の経済政策に取り入れられていきました。
もちろん、「アベノミクス」もこれです。
安倍元首相は、2013年2月の所信表明演説で、こう言い切りました。
「日本は世界で一番、企業が活躍しやすい国を目指します」
そして、そうなっていきました。
企業は利益を次々と上げていき、国民は生活を苦しくしていきます。
コロナ禍のとき、苦しむ国民の状況を見て、元文部科学省事務次官の前川喜平氏はこうつぶやきました。
「政府がやるべきことは、誰も死なないようにすること。企業ではなく、人を救うこと」

もうそろそろ、国民の生活を第一に考えるところから始まる政治が生まれてきてもいいのではないかなあと思っています。
2025.11.25
(注2)右図は『悪夢のサイクル ネオリベラリズム循環』より 内橋克人 文藝春秋 2006
