オノ・ヨーコさんを励まそう!-生徒の手紙がテレビ番組になって Ver.3

Imagine there’s no Heaven
It’s easy if you try
No Hell below us
Above us, only sky
Imagine all the people living for today

Imagine there’s no countries
It isn’t hard to do
Nothing to kill or die for
And no religion too
Imagine all the people living life in peace

You may say I’m a dreamer
But I’m not the only one
I hope someday you’ll join us
And the world will be as one

Imagine no possessions
I wonder if you can
No need for greed or hunger
A brotherhood of man
Imagine all the people sharing all the world

想像してごらん 天国なんてないと
簡単にできるだろう
地獄もない
ただ空が広がっているだけ
想像してごらん みんなが今日この日を生きていることを

想像してごらん 国境なんてないと
難しくなんかないだろう
殺したり死んだりすることもない
宗教もない
想像してごらん みんなが平和に暮らしているところを

夢だと君はいうかもしれない
でも僕一人じゃないんだ
みんなもいつか仲間になってほしい
そうすれば世界は一つになるだろう

想像してごらん 財産なんかないと
君ならできるだろう
欲張ったり飢えたりすることもない
みんな兄弟なんだ
想像してごらん 世界はすべてみんなのものだと

ジョン・レノンとオノ・ヨーコ

 今さら説明する必要もないほどの「祈り」の名曲、「イマジン」。

 この曲の本当の意味は、平和に浸っているときには分かりません。
ただの「こうなればいいなー」という理想を歌った曲に聴こえてしまいます。だから僕らは「うん、いい歌だね」と応えます。
 ところが、それまで隠されていた世界の危機が露わになってきたとき、未来を見失い切実に希望を探さざるを得なくなってきたとき、この歌はその真価を発揮し、世界の在り方、人の生き方の根源にまで問いかけてきます。
 この曲は「ラヴ&ピース」の曲などではなく、「アジテーション」です。その意味でジョン・レノンは、燃えるような信念を弟子たちに伝えた吉田松陰なのです。

 と偉そうに言っても、実は「イマジン」の凄さが分かっって来たのはご多分に漏れず2001.9.11 のアメリカ同時多発テロの時でした。
 外国による、初めての本土攻撃を受けたアメリカ国民の多くが「報復だ」「許せない、仕返しだ」と頭に血が上り、怒りに震えていました。それを諫めるかのように、オノ・ヨーコさんがジョン・レノンの名曲「イマジン」の一節をニューヨーク・タイムスの全面広告に出したという報道が流れてきたのです。
 その一節が

 Imagine all the people living life in peace.
 想像してごらん 世界の人々が平和に暮らしていることを

でした。 
 アメリカが報復しようとしている国々、アフガニスタンにもイラクにも、普通の人々が普通に生活している。そこに攻撃を加えて、何になるのだろう。
 そう問いかけていました。

オノ・ヨーコというと、熱心なビートルズ・ファンからは、かなり長い間、ジョンをたぶらかせて、ビートルズを解散させた悪女とまで思われていました。
 しかし、ヨーコさんがジョンの死後わずか一か月の1981年1月11日に世界の主要新聞紙に掲載した In Gratitude(感謝をこめて)という、世にも美しい英文を読むと、ヨーコさんがどれほど深くジョンの精神を理解していたかが分かります。

 彼女はこう述べました。

 「私は、ジョンが殺されたことに対して怒りを覚える皆さんに感謝したいと思います。皆さんの怒りを、私も共有したいと思います。
 私は、ジョンを守ってあげられなかった私自身に対して怒っています。
 私は、私自身と、この社会がここまで落ちていくのを許してしまった私たちすべてに対して怒っています。
 もし、私たちにできる『リベンジ』(復讐)があるのだとしたら、ジョンが信じていたように、この社会を愛と信頼を土台にしたものに作り替えていくことだと思います。
 唯一の慰めは、この地球上に、私たちと私たちの子どもたちのために、平和な世界を創ることができる、ということを見せることだと思います。」

 この人が、2001.9.11で発信していったわけです、
 In Gratitude でもそうでしたが、ジョンもヨーコも、音楽を通して、あえて言えば人間の存在を通して、世界をもっと良くすることが出来ると確信していましたし、そうしようじゃないかと心の底から呼びかけていたのです。
 それは、人間の本質に対する絶対的な信頼でもありました。
 そのことを、自分の中に、人間として素晴らしいものがあると実感させてもらってこなかったであろう子どもたちに伝えたいと思い、テロ直後のジョンの命日の翌日、中学生に授業をしてみました。

〇「イマジン」の授業

①ジョン・レノン「イマジン」(1971年録音)を聴かせる。知っている、聴いたことがあるという生徒は残念ながら少数。

②歌詞カードを配り、歌詞を追いながらもう一度聴く。

T.平和を歌ったジョンは1980年12月8日に殺されてしまいました。昨日が命日だね。
 でもその遺志をついでいるオノ・ヨーコさんは、アメリカの報復攻撃に対してつい先日、アメリカで最も影響力のある新聞「ニューヨーク・タイムス」に一行だけの全面広告を出しました。
 そう、「イマジン」の一節だね。今日はジョンとヨーコさんの足跡を追ってみたいと思います。

イマジン

③「知ってるつもり!? オノ・ヨーコ」(2001年)(注3)から、冒頭5分、タイムス全面広告とニューヨーク繁華街の同じ一文を載せた広告板、そしてジョンの誕生日に日本で開催されたジョン・レノン・スーパー・ライヴへのヨーコさんから日本へのメッセージ。
                           
④同番組からジョンとヨーコさんのベトナム反戦活動の様子。
 平和を求める人たちのカリスマ的存在になっていく。
 「ギヴ・ピース・ア・チャンス(平和を我等に)」も歌っている。

Imagine all the people living life in peace.

⑤1990年に放映された同じく「知ってるつもり!?ジョン・レノン」(注4)から、ジョンの誕生日に国連で『イマジン』をバックに語るヨーコさんのメッセージ。あらかじめ板書。

  A dream we dream alone is only a dream.
  But a dream we dream together is reality.
  Happy birthday, John. 
  The world is wiser today for having shared a time with you.

  一人で見る夢は 夢にしかすぎないけど
  みんなで見る夢は 現実になる
  誕生日おめでとう、ジョン。
  世界は あなたと時をすごして、
  少しばかり 賢くなりました。

⑥同番組からビートルズの歴史を5分。
 リヴァプールのライヴハウス「タバーン」出演の様子から始まり、「ラヴ・ミー・ドゥ」でレコード・デビュー、そしてイギリスから世界に飛び立ちビートルズは世界のアイドルとなる。日本にも来る。
 しかし、やがてジョンは人気の絶頂で「本当の自分とは何か」を考え始める。
 オノ・ヨーコさんとの出会い。
 VTR『ビートルズ・アンソロジー』から「愛こそはすべて」の演奏シーン。

⑦1975年以降の様子。
 ショーン君の誕生、仕事から手を引き「主夫」に専念する様子。
 身も心もクリーン、シンプルになった時、歌が溢れ出す。それが遺作となった1980年『スターティング・オーヴァー』の録音だった。

ジョン・レノン、息子のショーン君とヨーコさん

⑧1988年発表の映画『イマジン』から最後の部分。
 暗殺されてしばらくした後の息子のショーン君とヨーコさんのインタビュー。
 1980年12月8日の暗殺事件の様子。
 セントラル・パークでの追悼集会。数万の人々が涙を流しながら「愛こそはすべて」を歌う。
 最後に白い屋敷の中でジョンが歌う「イマジン」をもう一度聴く。

T.最後のインタビューのなかでヨーコさんは「ジョンは私の恋人であり、友人であり、パートナーであり、そして共に戦う戦士でした」と言っていたね。何に対して戦っていたのだろう。そのことも考えながら感想を書いて下さい。

 普段はあまり感情を表に出さない子どもたちが多かったのですが、この時書いた感想は子どもたちの心のかなり深いところから出てきたものが多く、感動させられました。
 これはと思い、知人の編集者からニューヨークのヨーコさんの住所を教えてもらい、子どもたちにヨーコさんへの手紙を書いてもらうことにしました。
 相手は忙しい方だから、返事は来なくてもがっかりしないこと、手紙で気持ちを伝えられるということだけで良しとしようと確認。子どもたちは一生懸命取り組んでいました。

                              
〇オノ・ヨーコさんへの手紙

 「私は小学校5年まで、アメリカに7年間住んでいました。
 だからテロのニュースをテレビで見たとき、すごく悲しくなりました。
 なんでこの世に戦争、テロなんてあるんだろうと思いました。
 社会科の授業で”Imagine all the people living life in peace”と書いてある新聞のことを先生に教えてもらった時、なんか心に来るものがありました。たった一文なのにすごく心を動かされました。
 授業でビデオを見て、ジョン・レノンの『イマジン』を聞いた時、私たちは立ち上がってこの世界のために何かしなければいけないと思いました。
 私はオノ・ヨーコさんをすごく尊敬します。ヨーコさんに今回こういう手紙が書けて良かったと思います。
 日本の中学生もあなたのことを応援していることを覚えていて下さい。」

 
 「こんにちは!私は中学2年生の女の子です。
 このあいだ、学校の社会科の授業の時に、『ジョン・レノン』さんのビデオを見ました。私はジョン・レノンという人は、ミュージシャンで、ビートルズのメンバーだったということしか知らなかったので、そのビデオを見てとても驚きました。
 その内容は、ジョンさんとヨーコさんが世界の平和を願い、色々な活動をしていたというものでした。歌をただ歌うのではなく、『イマジン』という曲は歌詞にとても強い平和への願いが込められていて、すごく感動しました。
 今、あのテロ事件以来戦争をしていますが、私はニュースを見るたびに思います。テロなどの犯罪で人を殺すことはとても悪い事、でも、空爆でまったく罪のない人々を殺したら、それはその犯罪と同じだ!
 どうしてそれに気づかない人がいるのだろう?
 どうして『イマジン』の歌詞のように考えられないのだろう?
 とても悲しくなります。
 ヨーコさんは、ビデオの中で、『ジョンは夫であり、恋人であり、友達であり、パートナーであり、共に戦う兵士でした。』と言っていました。
 私も世界が平和になったらいいなと思います。だから私も世界の平和のために戦う兵士になりたい!」

 これらの手紙、約170通をニューヨークに郵送、年が明けてヨーコさんの日本でのマネージャーという方から電話があり、ヨーコさんが手紙をすべて読んでくださったこと、とても喜んでくれたことを伝えて下さり、
 「小さなことでいいから平和につながることをしていって下さい」
というヨーコさんからのメッセージも頂きました。
 それを翌日伝えると、子どもたちは大喜び。これで一件落着のはずでした。

〇テレビ番組になる

 しばらくして再びマネージャーの方から連絡が入ります。
 ちょうどNHKで「イマジン」をテーマにしたドキュメンタリーを作る企画が進行中で、子どもたちの手紙のことをディレクターの方に話していいかと尋ねられました。もちろん快諾。
 3月上旬~中旬にテレビ・カメラが校内に入り、子どもたちの授業風景や部活での様子、インタビューなどを収録し、番組中の重要な場面として使うことになりました。

授業風景 番組より授業風景 番組より

 さらに、高橋佳子著の「人間だけが夢を描いて、それを実現することができる」をテーマにした優れたヴィジュアル・ブック『チャレンジ』を使って「イマジン」の歌詞の意味を深めようとした私の第2弾の授業も収録しました。
 出来上がった番組は『世界を刻んだ歌~イマジン』として4月11日夜、NHK・BS2で放映。75分番組のうち30分ほどが子どもたちのことで占められていました。

 放映後、子どもたちはテレビを通して自分たちの平和に対する考えを人々に伝えることができたという、充実感に満ちた、爽やかな顔をしていました。

〇番組を見ての感想

 「番組を見た時、想像していたのに比べて、全然いい感じに私たちの中学校の出番があって、すごいなーって思いました。やっぱり素人なので、一人ひとりのインタビューの所はカメラを意識してたりして面白かったです。

ボストン イマジン・プロジェクトの壁画 番組よりボストン イマジン・プロジェクトの壁画 番組より

 初め、オノ・ヨーコさんへ手紙を書くって聞いた時、正直どうせこんなの書いてもヨーコさんへは届きもしないだろうし、あっちでゴミか何かになって終わるんだろうと思っていました。
 けど、こんなすごいことになるなんて…。何でもやってみるもんだなーって思いました。自分が考えていたのより、全然すごいことしてたんだなーって。
 今までは 『私が○○をしたって、どーせ何も起こりはしないし…』とか思って諦めていたことが多いけど、やってみると案外何かは変わる、何かは起こるって思いました。
 オノ・ヨーコさんとジョン・レノンさんの生き方ってまさにこんな感じなんじゃないかなと思いました。
 自分の思いを人に伝えるって本当に大切なことなんだと思います。
 あの番組を見て、少しでも戦争について考える人が増えたとしたら、私たちのやったことって本当にすごいなーと思います。」(C・T)

 子どもたちが心からのまごころから書いた手紙がヨーコさんの心を打ち、それがテレビ番組制作にまでつながりました。
 まごころからの言葉や行動は世界を変える力を持ちます。
 そのことが子どもたちの心に少しでも根づいてくれて、「どうせやったって…」症候群の今の社会にいつか風穴を開けてくれる力になったら、こんなに嬉しいことはありません。

2025.4.25

(追記)
 このNHK番組『世紀を世紀を刻んだ歌・イマジン2001~2002』は50分に編集されたものが、世界の教育番組に対して贈られる「日本賞」の文部科学大臣賞を受賞し、そのことにより、こののち何度も再放送されることになりました。

 また、池上彰氏が過去のNHKの名作ドキュメンタリーを取り上げて紹介する『時をこえるテレビ』という番組で『世紀を刻んだ歌・イマジン2001~2002』が取り上げられることになりました。
 2025年6月13日(金)午後10時30分~11時30分です。
 お時間がおありでしたら、ご覧になって下さい。
 20年たっても毎年「イマジン」の授業をやっている僕の様子を、生徒のインタビューも含めて、2分間流してくれるそうです。白髪が増えていることでしょうが。