今年の夏も暑くなりそうです。
暑い夏を乗り越えるための小さな秘訣を一つ。
暑さそのものもさることながら、暑い!という「感覚」によって引き出される「感情」の方が、実は問題だと思ったりしています。
暑い!という「感覚」が呼び覚まされると、次に「あー、もう嫌だ」「何で、こんなに暑いのよ」という、「負の感情」が過剰に引き出されやすくなると思うのです。
その結果、イライラしながら一日を過ごしてしまうことにもなりかねません、身体にも良くない。
暑い!
でも、まあ体に気をつけながら、今日はこのことをやろうと、気持ちを「目的」の方に向けると負の「感情」に巻き込まれにくくなります。そうすると、意外なほど元気に過ごせます。お試しあれ。
暑い夏にぴったりの涼しげな音楽として、お勧めしたいのが、
1.ボサ・ノヴァ
2.クロンチョン
3.ハワイ音楽
です。
クロンチョン(Kroncong)はインドネシアの大衆音楽で、ポルトガルの影響を受けて生まれた世界最古のポピュラー音楽と言われています。
と言っても古めかしかったり、原始的だったりするものとは全く違います。洗練されて、まろやかで、心を温かくしてくれる音楽です。
僕が初めてクロンチョンを聴いたのは、多くの方もそうだと思うのですが、『魅惑のクロンチョン1&2』というCDによってでした。
これは中村とうよう氏が編集した、60年代インドネシア録音の名演集です。
1曲目の「海のクロンチョン」から、なんという優雅で清々しい音楽。
冒頭、無伴奏でフルートがゆったりとしたメロディを奏で、ヴァイオリンが対位的に絡み合って、やがてさざ波のようなリズムが入ります。
その細かく揺れるビートをつくっているのは、チャックとチュックという2本のウクレレのような小型ギター。
チェロは弓弾きでなくピチカットで変拍子を多用した自由で軽快なリズムを刻み、ウッド・ベースが音数少なく音楽を支え、ギターがメロディを飾ります。
そう、打楽器がないんです。弦楽器だけでつくられた、海の上をたゆたう小舟のようなリズム。
そこに多くの曲の場合、男性または女性のまろやかな歌が乗ります。
出来上がった音楽は、ポピュラー音楽としては世界に類がないほど優雅で、気品と繊細さに満ちた素晴らしいものでした。
こんな音楽があったなんて。
僕は一発でこの音楽のファンになりました。
クロンチョンの起源は16世紀初めごろ、インドネシアがポルトガルによって支配されたころまで遡ると言われています。
1492年コロンブスがアメリカ大陸に到達して「大航海時代」が始まります。
コロンブス以降、スペインが大西洋を越えて西へ西へと進出したのに対し、ポルトガルはアフリカ大陸最南端喜望峰を超えて、東へ東へ向かっていきました。
インド西部のゴアに本拠地をつくり、「黄金と香料」を求めて、やがてインドネシアの島々に来航します。(注1)
その船に乗っていたのはポルトガル人だけではありません。当然アフリカ人やインド人がいましたし、「船乗りシンドバッド」のようなアラブ人もいたことでしょう。
イベリア半島ではかつてポルトガル自身が、スペインと共にイスラム教徒によって支配されていたのですから、もともとアラブの文化は色濃かったはずです。
そんな多種多様な文化が、インドネシアのジャカルタ近辺で混じり合い、混血文化としてクロンチョンのふくよかな音楽性を生み出したと言われています。(注2)
言葉ではとても表現できないほどの多様なニュアンスを持つ、このクロンチョンを聴いていると、自分が音楽をつくるという意識はとうに超えて、自分たちは音楽を通す管だということに徹することが出来ているように思えるのです。
だから出来上がった音楽はまるで、自然の中に溶けてゆくかのようです。
それは「発展」の過程の中で多様な価値観を排除してきた、近代西洋の合理主義的価値観から生まれる世界に対する、強烈なアンチテーゼであるように思えます。
そんな合理主義に疲れ、イライラする僕らに、今こそ必要な音楽がこれです。
こちらもお試しあれ。
2024.9.6
(注2)You tubeで、村でクロンチョンの名曲を楽しそうに演奏している貴重な映像を見ることが出来ます。
「ブンガワン・ソロ」https://www.youtube.com/watch?v=a8lKKOypnMU
「クロンチョン・クマヨラン」https://www.youtube.com/watch?v=iqweIcffnzw